「カラハリが呼んでいる」を読んで

少し前に本屋大賞を取った『ザリガニの鳴くところ』の作者が、若き頃執筆したノンフィクション『カラハリが呼んでいる』を手に入れたので、読んでみました。

作者は大学卒業後直ぐに、結婚したばかりの夫と共に私財をなげうって資金を作り、未開の南部アフリカに動物の生態記録を綴るために向かったのです。日本人からしたら本当に驚異的な行動力です。帰路の費用も怪しい最低限の資金で、全く未知の未開の地に最低限の食料と燃料で向かったのです。はかないテント生活をしながら、ひたすらカッショクハイエナの生態を寝る間も惜しんで調査し、その記録を動物保護団体に送ってはぎりぎり資金を調達することの繰り返しでした。やがて調査対象は付近に生活するライオンのプライド(家族)にも広がっていきました。ライオンの生態記録を読むのは「野生のエルザ」以来なので(あれは遺児のライオンを育て上げた物語に近いノンフィクションですが)とても興味深いものでした。何せ獣医になったのは、この「野生のエルザ」によるところが大だからだです。中学のころなぜあれほどまでにこの本に惹かれたのかは分かりませんが、エルザが人間に育てられやがて自立して野生に戻り家族を作ること、エルザ亡き後その子たちの成長を綴った物語に夢中になったものでした。

エルザは美しい物語として終わってますが、現実は無残なものでした。作者は動物狩猟監視員の妻としてタンザニアに同行して暮らしていましたが、白人という事やもろもろの事で原住民に恨まれ、殺害されたといううわさも聞いています。

そして野生で生きることの過酷さは、『カラハリが呼んでいる』の中でもつづられています。まず野生に生まこれた子が無事育つのはほんの何割かにすぎません。他の肉食獣に襲われたり、餌を十分に与えられず餓死したり。若い母親の中には子育てを放棄し、子は置き去られ衰弱して死んでしまうという場面もありました。成長するにつれ、雄ライオンはプライドから追い出され一人獲物を取って生きていかなければなりません。縄張り争いで闘い大けがを負って死んでいくものものや、アフリカのきびしい気候で餌もなく飢えるものもいます。餌を求め動物保護区からはずれ、家畜を飼う人間やハンターに射殺された話もありました。人間が家畜を飼い口蹄疫の蔓延を防止するため、ヌーが近づかないよう膨大な柵を作ったために、水場と餌場の移動ができず大量のヌーが渇き死んだ問題もありました。

アフリカだけではありません。北極圏のシロクマは冬の氷が張る頃しかアザラシを捕食できず、夏場の半年以上はほとんど絶食状態だと聞きました。体重は半分近くになるそうです。夏陸地で過ごすポーラベアは、氷が張り始めるころ次々と海辺に集まってくるそうです。あるドキュメンタリー番組で、親子のくまがその長い旅をする映像を映していました。疲れた子熊が歩みを止め座り込むと、母熊はあやすようになだめるように子熊に寄り添い、やがて母グマは子グマを両手で抱き込んで座りこむ。何という映像だろうか、サーモン&ガーファンクルの「明日にかける橋」がバックに流れたその映像に涙が止まりませんでした。厳しい自然の中で生きるということは、困難な海に漂うようなもの…。野生動物は何という過酷な一生を生きるのだろう、いつもいつも飢えと死と隣り合わせで。

生き物は何のために生きるのか?答えのわからぬ問がいつも胸の中に漂っています。

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シンシア動物病院
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